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横領と背任の違いとは?-解説と具体例-

いつの時代も、横領による事件が後を絶ちません。

官民を問わず発生する横領には、職業の貴賤はないようです。

ところで、横領の他に、背任という罪名があることをご存知でしょうか。

二つの罪名が耳になじみのない方は、良く似た言葉のように思えるのではありませんか。法律上も、この二つの使い分けには諸説あるのです。

まず、横領というのは刑法第252条1項に規定されていますが、「自己の占有する他人の物を横領すること」をいいます。

一方、刑法第247条は背任罪について、「他人のためにその事務を処理する者が、自己もしくは第三者の利益を図り、または本人に損害を加える目的で、その任務に背く行為をし、本人に財産上の損害を加えること」を背任罪と規定しています。

では、他人のためにその事務を処理する者が、自己の占有する他人の物を横領し、本人に財産上の損害を加えた場合、横領と背任、どちらになるのでしょう。


判例に基づくと、そもそも横領とは、「他人の物を自己又は第三者のために不法に領得すること」をいい、故意とは別に不法領得の意思が横領罪の成立に必要であると解釈しています。不法領得の意思という主観を要件にしているのは、器物損壊等の他の犯罪との区別を明確にするためです。一方の背任罪では、不法領得の意思が不要とされ、図利(とり)加害目的が必要とされます。客体についても、「物自体に関する場合は横領、そうでなければ背任」と示しています。


 また別の判例では、「背任罪と横領罪は任務違背で共通しているが、一般法と特別法の関係にある」とも述べられており、学問上には法条競合と言われる関係にあります。簡単にいうと、横領が成立する場合には背任罪は成立しません。


 このように横領と背任には、主観の要不要や客体、優位関係と、実は様々な違いがあります。実際に起きる事件でどちらの言葉を使われているかで、事件の概要が想定できるように思えませんか。微細な違いがあるにせよ、どちらも犯罪であることは同じです。


我々の職場に当てはめて言うならば、事務員が長である弁護士の許可なく、長が許可しないであろう高価なパーテーションを購入したと想定しましょう。自分が家に持ち帰って使用するために事務所の経費でパーテーションを購入すれば、それは業務上横領です。

弁護士への嫌がらせのために事務所の経費でパーテーションを購入し、弁護士の仕事の能率を下げて追い出すに至った場合、それは背任です。

社会で働く一員として、この二つの罪名は常に意識しておきたいものです。